最強家族には地球の重力なんてなくなってしまうのだ!

 森淳一監督「重力ピエロ」は、映画化ばやりとなっている伊坂幸太郎の原作。ストーリーは、原作にほぼ沿って展開する。

 泉水と春の兄弟。母親が連続レイプ魔の手にかかり春を身ごもる。父親は自分の子どもとして育てようと決める。成長していくに従って自分の出生の秘密を知っていく春。そして、春は出所して近くに戻ってきたレイプ魔に復讐すべく、レイプ魔が行った犯行現場をなぞって放火をしていく。恐らく、父親が自負する「最強家族」の一員としての誇りを持って。

 レイプ、放火、殺人と悪質犯罪がストーリーの核であるにもかかわらず、「最強家族」の結びつきに救いがある。
 ラスト、春は、母親がレイプされた昔の家にレイプ魔を呼び出し、放火して殴殺する。泉水は、自首しようとする春を何とか思いとどまらせようとする。昔、一家四人でサーカスのピエロの空中ブランコを見たときに、母が「大丈夫、あんなに楽しそうなんだから、落ちるわけないわ」と春に言い、父も「楽しそうに生きていれば、地球の重力なんてなくなる」と応じたのを思い出し、ピエロがメイクや衣装で重力を感じさせないのと同じように、深刻なことを陽気に、楽しく語ることで、最強兄弟の兄として弟への重力をなくそうとする。そして、父親は二人に「俺に隠れて何かやっただろう」と聞く。何もしていないと二人は答える。父親は笑いながら春を見ていう。「おまえは嘘をつくとき、手で唇を触るんだ。俺に似て嘘をつくのがヘタだな」。「俺に似て」とさりげなく、当たり前のように言うのだ。まさに、ピエロが重力をなくしてしまうように、深刻なことを陽気に語るのだ。そう、最強家族には地球の重力なんてなくなってしまうのだ。

 いずれにしろ、春のしたことが間違っていたのか、正しかったかなんてことは、春が死ぬまで分かるわけはないのだ。伊坂ワールドにおいては、世界の成り行きなんて、「神様のレシピ」によって初めからすべて決まっているのだから、、、、。