最高に輝いた二人の最期に乾杯!

 ガーボル・ロホニ監督「人生に乾杯!」はハンガリーが舞台。少額の年金では暮らしていけない老夫婦が銀行強盗に走るという、基本的には暗いストーリーだが、周囲の反応や銀行強盗の素人っぽさがが温かみのある笑いを誘うし、人生の最期に輝きを取り戻して自爆していく老夫婦の姿に救いがある。 

 最初はヨボヨボの老人にしか見えなかった81歳の夫が、長年こよなく愛した車で銀行強盗に踏み出してから、イキイキ、颯爽としていく。妻もまた、逃避行をともにするなかで、夫との絆を改めて確認することで輝きを取り戻していく。

 死を覚悟したうえで、不幸な事故で幼くして亡くなった息子の命日までの残り少ない日々を、二人手を取り合って精一杯輝いて散ろうとするのだ。

 「俺たちに明日はない」のボニー&クライドは、草原に座り談笑しているときに警官隊の乱射を浴びる。「人生に乾杯!」はガソリンを積んだ車で自ら警官隊が道路封鎖する大型トラクターに激突していき、炎上死する。ともに壮絶なラストだが、ボニー&クライドには、カッコよく銀行強盗を続けてきた分、ある種の爽快感もあった。81歳・70歳の老夫婦の最期には感慨深い哀愁が漂う。

 彼らの強盗によって死者が出たわけでもなく、それほど社会に迷惑をかけたわけでもない(逆に年金に不満を持つ多くの高齢者の共感を得る)。ならば、自らの行動で最高に輝いた二人の最期に乾杯だ!