死と引き換えに歓声が欲しかったのだ!

 ノアの三沢光晴が試合中の事故で亡くなった二日後、ミッキー・ロークが昔の栄光を背負ってリングに立つレスラーを演じたダーレン・アロノフスキー監督「レスラー」を見た。

 絶頂期から20年。スーパーでバイトをしながら未だリングに立っているランディ(ミッキー・ローク)。リングと言っても場末の小さな会場。メインエベンターを務めているものの、それは過去の栄光によるものだし、試合の中身もキワもの的になっている。それでも、観客がエキサイトするよう、自己の肉体をツールにしてプロレスを演じていく。ここまでやるかみたいな、凄まじいファイトの連続だ。

 しかし、老いと常用していた筋肉増強剤が確実にランディの肉体を蝕んでいた。心臓発作に見舞われ、やむなく引退を決意するが、ランディの居場所はない。娘には愛想をつかされ、愛の存在を確かめようとしていた相手にも振られ、スーパーの仕事にもプライドを持てない。ランディが寄って立つ所はリングしか残されていない。

 そして、20年前の宿敵との再戦に応じる。それは、心臓に爆弾を抱え込んだランディにとって死を意味する。ランディが死と引き換えに求めたものは、エキサイトした観客の歓声に包まれることだったのだと思う。この歓声は、いくら金を積んでも買えるものではない。己の肉体とガッツをリングで強烈に弾けさせることでしか得られないものだ。

 死にゆくランディの意識を、沸きあがる歓声が包み込む。確かな男の生き様がここにある。